4 絶縁 ― 電気と人・機械を隔てる見えない壁
概要
絶縁は、導体や回路を電気を通さない物質で覆い、不要な電流の流れを防ぐ仕組み。熱、湿気、化学薬品、紫外線、塩害、機械的ストレスなどで劣化する。健全な絶縁は地絡や感電を防ぐ第一防線であり、定期測定や環境に応じた材料選びが重要。
本文
古い山小屋で、冬支度のために電気ヒーターを引っ張り出した鈴木さん。コンセントに差し込みスイッチを入れると、暖かい風と共に、ほのかに焦げたような匂いが漂ってきました。よく見ると、電源コードの外側の被覆がひび割れ、ところどころ中の銅線が見えています。この外側の被覆こそが、絶縁の一部です。
絶縁とは何か
絶縁とは、電気を通さない物質(絶縁体)で導体や回路を包み、電流が不要な場所に流れないようにする仕組みです。電気設備における第一防衛線であり、これが健全であれば地絡や感電はそもそも起きません。
絶縁が破れるとどうなるか
絶縁が劣化・破壊されると、導体同士や導体と大地の間に電流が流れ、地絡や短絡を引き起こします。これは感電や火災の直接的な原因になります。
鈴木さんのヒーターも、もし銅線が完全に露出した状態で触れていたら、確実に感電していたでしょう。
劣化の原因
絶縁は時間と環境の影響で劣化します。主な要因は以下の通りです。
- 熱:機器内部の発熱や外気温で樹脂が硬化・ひび割れ
- 湿気や水分:吸湿により絶縁抵抗が低下
- 化学薬品や油:樹脂やゴムを侵し、柔軟性を失わせる
- 紫外線:屋外配線の表面を劣化・粉化
- 塩害や粉塵:表面に導電性の膜を作り、沿面放電を促す
- 機械的ストレス:振動や屈曲で被覆が摩耗・断裂
こうした要因が重なり、目に見えない微細な傷や導電路が生まれます。
劣化の兆候
外見からも劣化の兆しが見える場合があります。
- 被覆や外装の変色やひび割れ
- 湿度の高い日に漏電遮断器が頻繁に作動する
- 機器使用時に異臭や異音がする
これらが見られたら、絶縁状態を測定器で確認し、必要に応じて交換や補修を行います。
絶縁を守る方法
- 配線を保護管やケーブルラックに収納
- 屋外では耐候性・耐UV性のある被覆材を使用
- 塩害地域では撥水コーティングや定期清掃
- 高温部には耐熱性の高い絶縁材を使用
- 配線は発熱源から離して設置
静かな守護者
接地や遮断器は事故が起きたときに働きますが、絶縁は事故が起きないように守り続ける存在です。目立たないけれど、最も根本的で重要な安全要素――それが絶縁なのです。
絶縁が健全であれば、地絡も感電も発生しません。
だからこそ、日々の点検と環境に応じた材料選びは、安全設計の基本中の基本です。
見えない壁を守ることが、安全の第一歩なのです。