13 誤差と不確かさ ― 数字の裏にある“ゆらぎ”を読む
概要
誤差は真の値と測定値との差。不確かさは測定値の信頼範囲を示し、測定値が真の値にどの程度近いと考えられるかを表す。誤差は事後的にしか求められない理想的な量であり、不確かさは事前・事後の評価が可能。現場では不確かさを理解して判断することで、過剰整備や誤判定を防げる。対策は測定器の校正、条件の統一、複数回測定、適切な機器選定。
本文
港湾地区の変電所で、定期点検をしていた検査員の井上さん。
高圧ケーブルの絶縁抵抗を測ると、去年の記録より少し低い値が出ました。
「劣化かもしれない」と思いつつ、井上さんは別の測定器でもう一度計測。
すると、また微妙に異なる数値――この差は何なのか。
答えは誤差と不確かさの違いにあります。
誤差とは
**誤差(error)**は、真の値と測定値との差です。
しかし現実には真の値を完全に知ることはできません。
そのため、誤差は理想的な概念であり、実務では推定された真値との差として扱います。
例:実際は100.00MΩの抵抗が、測定では99.85MΩと表示された場合、その差が誤差です。
不確かさとは
不確かさ(uncertainty)は、測定値が真の値にどの程度近いかを示す信頼範囲です。
国際標準(ISO/IECガイド GUM)では、不確かさの評価が測定結果の信頼性を示す正式な方法とされています。
例:「99.85MΩ ± 0.15MΩ(95%信頼水準)」と表記すれば、この±0.15MΩが不確かさです。
なぜ区別が重要か
誤差と不確かさを混同すると判断を誤ります。
- 誤差だけを見て「値が変わった=異常」と誤判定
- 不確かさを無視して安全マージン不足、または過剰整備
井上さんは、不確かさの範囲内での変化と判断し、設備交換を見送りました。
これにより無駄なコストと作業を回避できました。
不確かさを減らすための工夫
- 測定器の校正:定期的な精度確認
- 条件の統一:温湿度、配線方法の再現性確保
- 複数回測定:統計的なばらつき評価
- 適切な機器選定:必要な精度クラスの機器を使う
数値は客観的な事実ですが、それをどう解釈するかは人間の判断にかかっています。
誤差と不確かさを正しく理解することは、測定値を単なる数字から意味のある情報に変える第一歩です。