2 地絡 ― 電気が迷い込むとき
概要
本来絶縁されている導体が、事故や劣化によって大地や接地された金属部分と接触してしまう現象。感電や火災を招くため、零相電流変流器(ZCT)や漏電遮断器(ELB)で常時監視し、発見次第遮断。正式な読みは「じらく」。一部の現場では「ちらく」とも呼ばれるが、公式文書や試験では「じらく」が用いられる。
本文
ある雨の日、工場の設備保守担当の田中さんは、機械室の奥から聞こえる「バチッ」という音と焦げたような匂いに気づきました。設備は止まっていませんが、なんとなく不穏な気配が漂っています。原因を探ると、一台の配電盤の奥で、ケーブルの被覆が傷み、そこから金属のケースに電気が漏れている――これが地絡でした。
地絡とは何か
地絡とは、本来は大地から絶縁されている導体が、事故や劣化によって大地や接地された金属部分と電気的に接触してしまう現象です。
なぜ地絡は起きるのか
地絡の原因はさまざまです。
- 長年の使用による絶縁劣化(熱、湿気、紫外線)
- ケーブルが擦れて外装が破れる
- 雨水や結露が侵入し水分で絶縁抵抗が下がる
- 塩害や粉塵で表面に導電性の膜ができる
- 雷やサージで絶縁破壊が一気に起きる
田中さんの工場では、振動でケーブルが少しずつ動き、金属の角に擦られて被覆が薄くなり、ついに中の導体が露出していました。
地絡がもたらす危険
地絡が発生すると、その部分は予期せぬ通り道となって大きな電流が流れることがあります。
これにより、
- 金属筐体が活線化して感電事故につながる
- 接触部分が過熱し、火災やアーク放電が起きる
- 系統全体の電圧が乱れ、他の機器の誤動作を招く
見過ごされがちですが、たった1本のケーブルの地絡が工場全体の停止や甚大な損害につながることも珍しくありません。
地絡をどう見つけ、どう止めるか
現代の電気設備では、零相電流変流器(ZCT)が配線を常に見張っています。
正常なら相線を流れる電流の合計はゼロですが、地絡が起きるとそのバランスが崩れ、ZCTが異常を感知します。すると地絡継電器(GR)や漏電遮断器(ELB)が作動し、回路を遮断します。
田中さんの工場でも、もしこの保護装置がなかったら、地絡はさらに進行し、金属ケース全体が危険な状態になっていたかもしれません。
高抵抗接地という工夫
設備によっては、地絡が起きてもすぐに全系統を止めないために高抵抗接地を採用することもあります。これは、接地経路に抵抗を挟み、地絡電流を小さく抑える方式です。医療機関や化学プラントなど、停止が許されない現場では有効ですが、その分監視体制が重要になります。
とはいえ、高抵抗地絡もあります。安心はできません。
予防のために
地絡を防ぐには、まず絶縁を守ることが第一です。
- 配線の摩耗や損傷を点検する
- 湿気や水分の侵入を防ぐ構造にする
- 塩害や粉塵が多い環境では定期的に清掃やコーティングを行う
- 雷対策で過電圧を防ぐ
接地と違い、地絡は「意図した接続」ではなく、「望まぬ接触」です。だからこそ、日常点検で兆しを見逃さないことが重要なのです。
地絡は、普段は静かに潜み、ある日突然、音や匂い、動作不良として姿を現します。電気が本来通るべきではない道をたどり、予想外の場所にたどり着く――その瞬間を早く見つけ、止められるかどうかが、設備と人の安全を左右します。