1 接地 ― 見えない安全の下支え
概要
接地は、漏電や地絡が起きた際に電流を安全に大地へ逃がし、感電を防ぐ仕組み。雷やノイズ対策、回路安定化にも必須。種類は保護接地、機能接地、系統接地など。
本文
あなたが毎日使っている電子レンジや洗濯機、冷蔵庫。裏側や側面に「アース」と書かれた端子が付いているのを見たことはないでしょうか。
それが接地のための端子です。
電気の逃げ道をつくる
電気は目に見えない分、漏れたり迷い込んだりしても気づきにくい存在です。
もし内部の絶縁が壊れ、金属の外装まで電気が回り込んだら――見た目には何も変わらなくても、その筐体に触れた瞬間、あなたの体を電流が駆け抜けます。
このとき、筐体が大地につながっていると、電気はより抵抗の少ない「逃げ道」を見つけ、あなたの体ではなく地面へ流れます。これが保護接地の役割です。
「安全」だけじゃない接地
接地には、安全のためだけでなく、もう一つの重要な役割があります。それは安定した基準をつくること。計測器や音響機器などは、基準電位が揺れると測定値や音質が乱れます。そこで回路の一部を接地し、「ここがゼロ」という基準を機器の中に持たせます。これを機能接地と呼びます。ノイズを減らす効果もあり、音楽スタジオや精密測定の現場では欠かせません。
さらにもう一つ、設備保護としての接地もあります。雷が近くに落ちたり、大きなスイッチを切り替えた瞬間に発生する過電圧は、電気機器にとって脅威です。適切な接地があれば、そのエネルギーは安全な経路を通って地面に逃がされ、機器を守ることができます。
接地にも流儀がある
一口に接地と言っても、やり方は一つではありません。家庭のアース端子は、配電盤の接地棒や建物の鉄骨を経由して大地につながります。工場では、計測用のクリーンアースとモーター用のダーティアースを分けることがよくあります。そうしないと、大電流が流れる機械のノイズが計測器に入り込み、誤動作やデータの乱れを招くからです。
また、すべてを一か所で接地する「一点接地」、施設全体を同じ電位にそろえる「等電位ボンディング」など、用途や環境に応じた設計もあります。雷対策なら「抵抗が低いだけでは足りない」、高周波成分にも対応できるよう配線を短く太く、曲げを少なくしてインピーダンスを下げる工夫が必要です。
つないでいるのに危険になることも
接地は安全の味方ですが、場合によっては逆に危険やトラブルの入り口になることがあります。例えば、同じ接地線をたくさんの機器で共有すると、別の機械から流れたノイズや漏れ電流がその接地線を通ってやってくる――これが「アースからの侵入」です。計測値がぶれたり、機器が誤動作したりする原因になります。
そんなときは、思い切って接地を切り離す=浮かせる(フローティング)設計が有効なこともあります。完全に孤立させると静電気の影響で電位が不安定になるため、抵抗やコンデンサを介してゆるくつないでおく「仮想接地」という手もあります。
事故の記憶
ある工場で、制御盤の中にあるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)がしょっちゅう誤動作するという相談を受けました。調べると、PLCの基準アースと工場内の大型モーターの接地が同じバーにまとめられていました。モーターが起動するたびに接地線に電流が流れ、PLCの基準電位が揺れていたのです。接地系統を分け、等電位ボンディングを適切に設計したところ、誤動作はぴたりと止まりました。
接地は、普段は意識されず、目立たない存在です。しかしその存在は、感電や火災、誤動作といった危険から私たちを守り、電気の世界の秩序を保つ“縁の下の力持ち”です。接地の意味や方法を正しく理解し、状況に応じた設計を行うことこそ、安全で安定した電気利用の第一歩なのです。