5 コロナ放電 ― 見えない光のささやき
概要
コロナ放電は、高電圧導体の周囲で空気が部分的に電離する現象。雨や湿気、汚損によって発生しやすく、紫色の微光やジジジという音、オゾン臭を伴う。長期的には絶縁劣化や腐食、エネルギーロス、電磁ノイズの原因となる。対策は導体表面の滑らかさ確保、コロナリング設置、間隔の確保、汚損防止など。
本文
夕暮れ時、郊外の送電線を見上げると、鉄塔の高い位置で電線の周りがうっすら紫色に光って見えることがあります。
耳を澄ますと、「ジジジ…」という細かい音。湿気の多い日や雨上がりに、この現象はよく見られます。
それがコロナ放電です。
コロナ放電とは
コロナ放電は、高電圧導体の表面付近で空気が部分的に電離し、微弱な光と音、独特のオゾン臭を発する放電現象です。
導体周囲の電界が局所的に強まり、空気の絶縁破壊電界(約3kV/mm)を超えると発生します。
発生しやすい条件
- 導体表面の傷や汚れで電界が集中
- 湿気や雨粒による電界分布の乱れ
- 鋭利な形状や突起がある箇所
- 汚損や塩害で表面状態が悪化している場合
コロナ放電の影響
一見、弱々しい現象に思えますが、長期的には次のような悪影響を及ぼします。
- 絶縁劣化:オゾンや窒素酸化物による樹脂やゴムの酸化
- 金属腐食:表面酸化が進行
- エネルギーロス:送電効率低下(コロナ損)
- 電磁ノイズ:通信や制御機器に干渉
- 沿面放電の誘発:絶縁距離が足りない箇所でさらなる放電が発生
対策
- 導体表面を滑らかに加工し、突起や鋭角をなくす
- コロナリングを設置して電界を均一化
- 十分なクリアランスを確保
- 汚損防止のため定期清掃やコーティング
- 塩害地域では撥水性材料や長傘形絶縁子を採用
現場の事例
沿岸部の変電所では、冬の季節風で海塩が絶縁子に付着し、夜間にコロナ音が頻発していました。
絶縁子を長傘形に交換し、表面に撥水性コーティングを施したことで発生頻度が激減。
さらに定期的な高圧洗浄を取り入れ、絶縁性能を維持できるようになりました。
コロナ放電は、派手な事故をすぐには起こさないかもしれません。
しかし、放置すれば絶縁をじわじわと蝕み、やがて地絡やアーク放電の引き金になります。
静かな光と音は、設備からの「助けて」のサインなのです。