10 アースからの侵入 ― 安全線が裏口になるとき
概要
アースからの侵入とは、安全や安定のために用いる接地線を通じて、他機器からのノイズや地絡電流が逆流してくる現象。原因は大電流機器の起動・停止、雷やサージ、地絡事故、グラウンドループなど。影響は計測誤差、制御機器の誤動作、通信エラー、機器破損。対策は接地系統の分離、一点接地、専用帰路、片側シールド、フィルタの使用。
本文
工場のメンテナンス担当の佐々木さんは、新しく導入した検査装置が時々意味不明なエラーを出すことに頭を抱えていました。
配線もプログラムも問題なし。
原因を追うと、思いもよらないところ――接地線にありました。
アースからの侵入とは
本来、安全や安定のために設けられた接地線は、施設全体で共用されることが多く、建物の金属部や複数の機器が同じ接地バーにつながっています。
この共用経路を通って、別の機器から流れるノイズや地絡電流が侵入してくることがあります。
これが「アースからの侵入」です。
なぜ起こるのか
- 大電流機器の動作:モーターやインバータの起動・停止時に接地線へ電流が流れ込み、電位が変動
- 雷やサージ:高周波成分を含む電流が接地系を通じて拡散
- 地絡事故:別回路での地絡電流が接地線を経由して他機器に流入
- グラウンドループ:複数の接地点がループを形成し、誘導電圧や電流が流れる
佐々木さんの工場では、大型プレス機と検査装置が同じ接地バーにつながっており、プレス機の起動時に発生する高周波ノイズが検査装置に侵入していました。
影響
- 測定値の揺れや誤差
- 制御機器の誤動作や停止
- 通信エラーやデータ破損
- 最悪の場合は機器破損
これらは一見すると「ソフトのバグ」や「偶発的な不良」に見えるため、発見が遅れがちです。
防ぐための工夫
- 接地系統の分離
クリーンアース(計測・信号用)とダーティアース(動力用)を別系統にする。 - 一点接地
基準電位を一か所に集中させ、ループ経路を防止。 - 専用帰路の確保
ノイズ源機器と敏感機器は別経路で接地。 - シールドと片側接地
ケーブルシールドは片側だけ接地してループを避ける。 - フィルタやコモンモードチョーク
高周波ノイズを接地経路で減衰させる。
現場での改善
佐々木さんは、検査装置の接地を別のクリーンバーに移し、プレス機の接地とは直接つながらないようにしました。
さらにシールドケーブルを片側接地に変更し、フィルタを追加。
その結果、検査装置のエラーはぴたりと止まりました。
接地は本来、**「安全の道」であるはずです。
しかし設計や運用を誤れば、その道はノイズや事故電流の「侵入路」**になります。
接地設計は「つなぐ」かどうかだけでなく、「どうつなぐか」まで考えることが、安全で安定した設備運用の条件なのです。