9 浮かせる(フローティング) ― あえて切り離す安全と静けさ

概要
浮かせる(フローティング)とは、機器や回路の基準電位(GND)を大地や他の基準点から絶縁し、電気的に孤立させる設計手法。目的はアース経由のノイズ侵入や地絡電流の逆流を防ぐこと。実現方法は絶縁トランス、光アイソレータ、バッテリー駆動など。完全隔離は静電誘導で不安定になるため、高抵抗やコンデンサを介した仮想接地を用いる場合もある。


本文
研究室の計測台の上に並ぶ、真新しい計測器たち。
学生の山田さんは、先輩から「この装置はアースにつながないで使うんだよ」と言われ、首をかしげました。
接地は安全のために必要だと思っていたのに、なぜあえて切り離すのか――これが**浮かせる(フローティング)**という設計思想です。

浮かせるとは

浮かせるとは、機器や回路の基準電位(GND)を大地や他の基準点から絶縁して孤立させることです。
この状態では、接地線を通じた直接的な電気的つながりがありません。

なぜ接地を切るのか

接地は安全のための手段ですが、同じ接地線を複数の機器で共有すると、そこを通じてノイズや漏れ電流が逆流してくる場合があります。
これが「アースからの侵入」です。
計測や制御の現場では、この逆流ノイズが測定値を揺らし、機器の誤動作を引き起こすことがあります。

山田さんの研究室では、微小電圧を測定する実験で、全計測器を接地した結果、数値が数ミリボルト単位で揺れていました。
回路を浮かせたところ、揺れが嘘のように収まりました。

浮かせる設計の方法

  • 絶縁トランス:一次と二次を電気的に分離
  • 光アイソレータ:信号を光で伝達し、電気的接続を遮断
  • バッテリー駆動:完全に独立した電源を使う
  • ケーブルシールドの片側接地:ループ防止とノイズ逃がしを両立

完全隔離の落とし穴

完全に浮かせると、大地との電位基準がないため、静電誘導や漏れ容量でふらふらと電位が変動します。
外部からの静電気放電(ESD)に弱くなることもあります。

そのため、多くの場合は高抵抗やコンデンサを介して仮想接地を作り、電位をゆるやかに安定させます。
これによりノイズ経路は遮断しつつ、静電気や電位ふらつきへの耐性を確保します。

現場での判断

浮かせるか接地するかは、目的と環境で決まります。

  • 精密計測や信号処理重視 → 浮かせる設計が有効
  • 安全性や雷対策優先 → 接地を優先

山田さんの研究室では、計測器は浮かせ、装置筐体は接地する「二重構造」にしました。
これにより、安全性と測定精度の両立ができました。


浮かせる設計は、接地の対極ではなくもう一つの選択肢です。
必要な時だけ線をつなぎ、不要な時は切る――その柔軟さが、静かで安定した計測や制御を可能にします。
重要なのは、「なぜ浮かせるのか」を理解し、環境と目的に合わせて選ぶことです。

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