8 雷 ― 空から落ちる瞬間の衝撃
概要
雷は、大気中で蓄えられた静電気が一気に放電する自然現象で、数万〜数十万アンペアの電流をマイクロ秒単位で流す。被害は直撃雷だけでなく、誘導雷や逆流雷もある。影響は絶縁破壊、地絡、火災、機器誤動作など。対策は避雷針やSPD(サージ防護デバイス)、低インピーダンス接地、等電位ボンディング、多段保護。
本文
夏の午後、山あいの変電所で勤務していた高橋さんは、遠くの山からゴロゴロと低い音が近づいてくるのを聞きました。
空はまだ明るいのに、空気が湿っぽく重くなり、風が急に止まります。
数分後、閃光と轟音が同時に襲い、施設全体がまぶしい光に包まれました。
直後、計器の警報ランプが一斉に点滅――雷が近くに落ちたのです。
雷とは
雷は、大気中で発生する大規模な放電現象です。
放電路が形成されると、瞬間的に数万〜数十万アンペアの電流がマイクロ秒単位の立ち上がりで流れます。
この膨大なエネルギーは、電気設備や建築物、時には人命にも深刻な被害を与えます。
雷の侵入経路
雷被害は直撃だけではありません。
- 直撃雷:建物や設備に直接落下
- 誘導雷:近くに落雷し、その電磁パルスが配線や機器に高電圧を誘起
- 逆流雷:電線や通信線を通じて遠方から雷電流が逆流
高橋さんの変電所では、山腹に落ちた雷の一部が送電線を通って施設に侵入しました。
雷がもたらす影響
- 絶縁破壊:過電圧でケーブルや機器の絶縁が一瞬で破壊
- 地絡や短絡:破壊部分から電流が漏れて事故拡大
- 機器の誤動作や破損:制御回路や通信機器に高電圧ノイズが混入
- 火災:高温の放電やアークが可燃物に着火
雷から守るための対策
- 避雷針(LPS)
雷を建物より高い位置で受け止め、安全に大地へ流す経路を作る。 - SPD(サージ防護デバイス)
過電圧を瞬時にバイパスし、地面に逃がす。粗・中・精密の多段保護が理想。 - 接地設計
雷電流は高周波成分を含むため、接地抵抗だけでなく配線のインダクタンス低減(短く太く曲げ最小)が重要。 - 等電位ボンディング
施設内の金属部や接地系を結び、雷電流による電位差を抑える。
現場の教訓
高橋さんの変電所では、一次SPDが大部分のエネルギーを逃がしてくれましたが、古い制御盤の一部には二次保護がなく通信装置が故障。
これを機に、施設全体で多段SPDと接地経路の見直しが行われました。
雷は止められない自然現象ですが、落ちる場所や経路を制御することで被害は最小限にできます。
空に光る稲妻を見たら、その瞬間から設備の安全を思い浮かべる――それがプロの電気技術者の習慣です。