6 アーク放電 ― 一瞬で襲う閃光と熱
概要
アーク放電は、空気などの気体の絶縁が破れて大電流が持続的に流れる現象。数千℃の高温と強烈な光、衝撃波を伴い、火災や爆発を引き起こす。原因は接点開閉時の火花、接触不良、損傷導体、地絡・短絡など。対策はアーク消弧機構付き遮断器、端子の締め付け管理、定期清掃、アーク検知システムなど。
本文
真夜中の工場。夜勤の山本さんが、製造ラインの異常音に気づいて配電盤の前に立った瞬間、
「バンッ!」という破裂音と共に、目の前が真っ白な光に包まれました。
同時に熱風が押し寄せ、耳がキーンと鳴ります。
後で分かったのは、盤内で発生したアーク放電でした。
アーク放電とは
アーク放電は、気体の絶縁が破れて大電流が持続的に流れる放電現象です。
コロナ放電が「静かに進む劣化」だとすれば、アーク放電は「一瞬で爆発的に広がる事故」です。
アークは数千℃の高温を発し、その光には強い紫外線が含まれます。
わずかな時間で金属を溶かし、周囲の空気を急激に膨張させて衝撃波を生み、破片や溶融金属を飛び散らせます。
発生の主な原因
- 接点開閉時:スイッチや遮断器のオン・オフの瞬間に電流が飛び移る
- 接触不良や緩み:小さな隙間が過熱 → 絶縁劣化 → アーク発生
- 導体の損傷や汚損:破断部や汚れた面で放電路が形成
- 地絡や短絡からの発展:事故電流がアーク化するケース
山本さんのケースでは、古くなった配線端子が緩み、負荷電流による発熱で絶縁が焦げ、隙間にアークが走ったのが原因でした。
アーク放電の危険性
- 高温火炎:可燃物や配線被覆を瞬時に燃やす
- 強烈な光(紫外線):網膜損傷や視覚障害の危険
- 衝撃波:鼓膜損傷や転倒を招く
- 飛散物:溶融金属や破片による火傷・外傷
特に盤内アークは、密閉空間で空気が膨張し、扉を吹き飛ばすほどの圧力を生じることがあります。
防止と対策
- アーク消弧機構付き遮断器:アークを引き伸ばし、冷却して消弧
- 端子の締め付け管理:規定トルクで増し締め
- 定期清掃:粉塵や汚損を除去し、沿面放電を防ぐ
- アーク検知システム:光や音を検出して瞬時遮断
現場での教訓
山本さんは、防爆仕様の配電盤と防護具に守られ、大きな怪我はありませんでした。
しかし盤内は大きく損傷し、復旧には数日を要しました。
この事故をきっかけに、工場では端子締め付け管理と赤外線カメラによる温度監視が徹底されました。
アーク放電は、一度発生すれば短時間で甚大な被害をもたらします。
その予防は、日々の点検と設計段階での安全装置選定にかかっています。
「滅多に起きない」ではなく、「一度でも起きたら終わり」という意識が、安全と命を守ります。