米CPI発表後、市場が示した分岐点

雇用減速と政策のねじれがもたらす次の一手

8月11日、私はこう問いかけた。

「米CPI発表を前に、あなたならどんな構えを取りますか?」

その問いの答えが、市場から返ってきた。CPIの数字、失業率の変化、そして株式・為替の値動き。これらは単なる“結果”ではなく、次の展開を形づくるシグナルである。

1. 米CPIの数字に潜むメッセージ

発表された7月の米CPIは+2.7%(予想一致)。表面上は安堵を誘う数字だが、内訳は異なる表情を見せる。コアCPIは+3.1%と依然高く、サービス価格の粘着性が続いている。この“粘り”は、インフレの再加速リスクを消しきれないことを意味する。

市場は一瞬、利下げ期待を強めたが、FRB内部には「コアの高止まりが続く限り拙速な緩和は危うい」という慎重論も残っている。つまり、数字は予想通りでも、解釈は一枚岩ではない

2. 失業率上昇が変えた空気

7月の米失業率は4.2%へ上昇。増加幅はわずか0.1ポイントだが、非農業部門雇用者数の伸びは7.3万人と低調で、過去1年で最も弱いペースだった。加えて継続失業保険申請は2021年以来の高水準。これは、労働市場の需給が緩みつつある明確なシグナルであり、インフレ抑制のためにFRBが目指してきた「労働市場のクールダウン」が形になり始めた証拠でもある。

このため、9月FOMCでの利下げ確率は90%超に跳ね上がった。CPIだけでは踏み切れなかった緩和シナリオに、雇用指標が背中を押した形だ。

3. 日本市場の逆風構造

米利下げ期待という“世界的リスクオン”の風が吹く中、日経平均は−625円の大幅反落。その背景は三重構造だ。

  1. 高値警戒感
    直前6営業日で約3,000円上昇した反動。
  2. 円高進行
    米利下げ観測によるドル安が、輸出株の収益見通しを押し下げ。
  3. 日銀利上げ観測
    ベッセント米財務長官の「日本は利上げを検討すべき」発言や、日銀内部の引き締め寄り発言が心理的重荷に。

米国が緩和方向に舵を切る可能性を高める一方で、日本は引き締め方向の可能性を残す――この政策のねじれが、相場の温度差を生んだ。

4. 前回の問いの“答え合わせ”
  • 期待に賭けて動く
     米株では成功。しかし日本株では政策の逆風と円高で逆効果に。
  • 様子を見て判断する
     CPIと雇用を確認後に米株参入なら有効。ただし日本株は依然難所。
  • 全く別の戦略
     内需株・円高メリット銘柄、為替ヘッジを組み合わせた戦略が最も安定。
5. 次に見るべき指標と戦略の分岐

次の分岐点は9月のFOMCと、10月に予想される日銀展望レポートだ。その間に注目すべきは――

  • 米国:PCEデフレーター、JOLTS求人件数、ISMサービス業指数
  • 日本:CPI(全国・東京)、日銀短観、為替のドル円110円台接近の有無

戦略の方向性は3つに収れんする。

  1. 米緩和前提のリスクオン(米株中心・ハイテク軸)
  2. 日本利上げ前提の守り(内需・高配当・低PER)
  3. クロス戦略(米株ロング+日本株ショート/為替ヘッジ)

結び ― 市場は“問いかけ続ける”

市場は常に問いを投げかける。数字はその一部にすぎない。重要なのは、その数字の背後にある心理と構造を読み解くことだ。

8月11日の問いに対する今回の答え合わせは終わった。だが、次の問いはもう始まっている。あなたは、この政策のねじれと為替の波をどう乗りこなすだろうか。


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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買や投資行動を推奨するものではありません。市場動向や経済指標の見通しは将来の成果を保証するものではなく、投資判断は読者ご自身の責任において行ってください。

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